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新潟県の新羅神社(1)


新潟県は弥生時代の古代から新羅(加羅)系氏族が勢力を持っていた。越の国といわれ、中でも新潟県は越後と称された。

新羅明神を祭る神社は頸城(くびき)郡妙高村関山の関山神社である。 妙高村関山は、正式には新潟県頸城郡(久比岐)妙高村関山 といい、長野県との県境に近い。妙高山の麓にあり、妙高山 やそれに連なる山岳地帯を流れる関川に沿った街である。

信濃国を通る東山道が筑摩郡の錦織(にしごり)駅で分岐し、上野国へ向かう本道と越後の国府へ向かう支道とに分かれるが、 この支道を北上する道が妙高高原を通り妙高村関山・新井市・上越市と続く旧北国街道である。 途中の関川には関所の跡が今でも残っている。

寛政六年(1465)、京都常光院の尭恵(ぎょうえ)が当地を通過の折に、
「限りなき行之隔に聞えし関の山も是ならんとわけ入て…… 明くる日信濃国へうつりき」(『善光寺紀行』)と記している。 文字通り首(頸)のように険しい山岳地帯の道であった。 関山から関川に沿って北上すると高田平野が広がる。

一、神社の祭神と新羅仏

関山神社の祭神は国常立(くにとこたち)尊(関山大権現・聖観世音菩薩) ・伊弉冉(いざなみ)尊(白山大権現・十一面観世音菩薩) ・素盞鳴(すさのお)尊(新羅大明神・騎獅文殊菩薩)の三神である。 祭神の神々は国土創成の神である。国常立尊と天孫族に連なる伊弉冉尊と素盞鳴尊 (『出雲風土記』では須佐能鳥命、『古事記』は速須佐之男命)である。素盞鳴尊につい ては須佐の男という意味で、須佐之男ということであろう。

関山大権現(地主)は殿内中央の厨子に安置されている聖観世音菩薩像である。 身の丈は二〇・三cmの小像である。この像は朝鮮三国時代(600年代)の新羅仏であるといわれ、 女性的な感じがする。顔はやさしく優雅に笑みを浮かべ、身体は細身で、特に腰のあたりが細くしまっている。 上体を少し右に傾けた青銅の立像である。全体的に清楚な感じで、量感を感じさせない。 同じ飛鳥時代の法隆寺夢殿観音のような雰囲気をもつ仏様である。

この関山神社本尊の新羅仏は、御開帳すれば目がつぶれたり災害が起こると伝えられてきた秘仏であるが、 昭和三十六年の御開扉で、現在の姿を現わしたものである。私はこの聖観世音が新羅仏であることから、 元々この聖観音は国常立尊ではなく、素盞鳴尊の垂迹として祭られていたと考えるべきだと思う。

元々当地方を開拓したのは日本海を渡って移り住んだ朝鮮半島や中国大陸の人々であり、 新羅(加羅)系の人々が本格的開拓を行ない、従前の信仰の対象である妙高山や関川と共に 祖神を祭ったのであろう。従って、当地方の開拓神は恐らく素盞鳴尊であった。つまり出雲族と同族である。

『新井市史』にはこう記述されている。
「本像(銅造菩薩立像)は関山神社の御神として本殿の奥深く安置してある秘仏である。 銅造鍍金の像であったと思われるが、火中したため鍍金は落ち、 その他にも宝冠部・両前膊・両足・両腕より垂れた天衣の先を失っている。 しかし、本像の面長の面相、髪際の線や杏仁形に近い眼、蕨手の垂髪、 下腹を前方に突き出した姿は極めて法隆寺夢殿の観音像に近い作風をもっている。 また胸飾りの形式や胸に表れた下衣の縁に彫られた半パルメットの文様、 背中のところに表れた下衣の半パルメットの文様などは、まったく法隆寺金堂釈迦三尊像の脇侍と共通している。 しかし、これは日本の製作ではなく、恐らく朝鮮三国時代の遺品が、 何らかの事情でこの地に伝わったものと考えられる。……日本の七世紀の金銅仏には例が少なく、 朝鮮三国時代の遺品にはしばしば見かけられるからである。 ……本像の箱は元禄時代のもので、内箱は明治四十四年のもの、それには新羅大明神と墨書されている」

この記述によれば、江戸時代には明らかに新羅明神が本地仏であったことが判る。

更に、この地方には弥勒信仰が存在していたことが知られている。
「妙高山麓の関山にある石仏を、地元の人が弥勒菩薩と言い伝えてきた。 大正五年(1916)に関山神社社殿の南側から経塚が発見され、銅経筒・壷・針が発掘された。 江戸時代末期に関山一帯に弥勒信仰があったことを物語っている」
(『妙高村史』ほか)

弥勒は後に救世観音と呼ばれるようになったところからすると、 関山神社の聖観音像は新羅の花郎制度に始まり、七世紀迄続いた弥勒信仰の影響があったのかも知れない。

出羽弘明(東京リース株式会社・常務取締役)






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