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庚申待ち
祭りは、祝詞(のりと)、巫女の舞い、湯立てなど神事のあと、その夜は村人が拝殿に集まり、
夜通しの酒宴を設けて夜明けを待つ。このとき、今年の松茸山の入札も行なわれる。
「くるび」とは、地元では「実りが来る日」「収穫の来る日」と解されているが、
実は、祭りは明らかに「庚申(こうしん)待ち」の形をとどめたものであり、
くるびとは、文字どおり、来る日、庚申待ちが明ける翌日を意味したものと思われる。
かつて暦では十干と十二支を組み合わせて年や日を表わした。
その十干、甲(きのえ)・乙(きのと)・丙(ひのえ)・丁(ひのと)・戊(つちのえ)・己(つちのと)・庚(かのえ)・辛(かのと)・壬(みずのえ)・癸(みずのと)の「庚(かのえ)」の、十二支「申(さる)」の日、
庚申(かのえさる)の日の夜に、人の腹の中に棲んでいるという三匹の虫が、睡眠中に天に昇り、その人の罪業を天帝に
告げて命を縮める、という。中国・道教の古い禁忌の一つ。
だから人は、この夜は、腹の中の虫が天に昇らないよう、仏家は帝釈天(たいしゃくてん)
と青面(しょうめん)金剛を、神道では猿田彦命を祀って、寝ずに一夜を過ごす。
青面金剛は六本の腕と三つの眼を持つ、忿怒の相をした顔が青色の童子。病魔を払い除く威力を持つ。
眠っていけない夜は、六十日に一回まわってくる。
庚申待ちの信仰は、わが国には平安時代に伝わり、王朝文学にもしばしば神妙に夜明けを待つ様子が描かれている。
江戸時代になって隆盛を極めるが、もう形式ばかりが残る形となり、ただ五穀豊穣を祈ったり祝ったりする、
夜通しの飲み喰いを楽しむ講となる。
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