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庚申待ち


くるび祭/神事(石部町)

くるび祭/巫女の舞い


毎年九月十日、甲賀郡石部町東寺(ひがしでら)では、天台宗長寿寺の守護神社である白山神社で「くるび祭り」が催される。 この日、氏子の各家では「くるび餅」をつくって祭りを祝う。くるび餅というのは、大豆あんでおはぎを包んだ、 そう、東北・宮城県や山形県の名産「ずんだ餅」である。
 
くるび餅


祭りは、祝詞(のりと)、巫女の舞い、湯立てなど神事のあと、その夜は村人が拝殿に集まり、 夜通しの酒宴を設けて夜明けを待つ。このとき、今年の松茸山の入札も行なわれる。


「くるび」とは、地元では「実りが来る日」「収穫の来る日」と解されているが、 実は、祭りは明らかに「庚申(こうしん)待ち」の形をとどめたものであり、 くるびとは、文字どおり、来る日、庚申待ちが明ける翌日を意味したものと思われる。


かつて暦では十干と十二支を組み合わせて年や日を表わした。 その十干、甲(きのえ)・乙(きのと)・丙(ひのえ)・丁(ひのと)・戊(つちのえ)・己(つちのと)・庚(かのえ)・辛(かのと)・壬(みずのえ)・癸(みずのと)の「庚(かのえ)」の、十二支「申(さる)」の日、 庚申(かのえさる)の日の夜に、人の腹の中に棲んでいるという三匹の虫が、睡眠中に天に昇り、その人の罪業を天帝に 告げて命を縮める、という。中国・道教の古い禁忌の一つ。


だから人は、この夜は、腹の中の虫が天に昇らないよう、仏家は帝釈天(たいしゃくてん) と青面(しょうめん)金剛を、神道では猿田彦命を祀って、寝ずに一夜を過ごす。 青面金剛は六本の腕と三つの眼を持つ、忿怒の相をした顔が青色の童子。病魔を払い除く威力を持つ。 眠っていけない夜は、六十日に一回まわってくる。


庚申待ちの信仰は、わが国には平安時代に伝わり、王朝文学にもしばしば神妙に夜明けを待つ様子が描かれている。 江戸時代になって隆盛を極めるが、もう形式ばかりが残る形となり、ただ五穀豊穣を祈ったり祝ったりする、 夜通しの飲み喰いを楽しむ講となる。


水口から信楽に抜ける道沿いの小高い山、庚申山の頂きに建つ天台宗広徳寺(水口町山上(やまがみ))は、 青面金剛を本尊とする伝教大師開基の古寺で、ここら甲賀郡一帯の庚申信仰の本山ともいうべき存在だ。 「山上の庚申様」と崇められ、庚申の日のお参りが絶えず、夜にはお堂で夜明けを待つ信者たちがいまもいる。 真鍮(しんちゅう)の神様としても知られる。
 
庚申山広徳寺(水口町)


かつての杣(そま)街道から広徳寺まで、往時を偲ぶ参道が残されていて、 村の境には広徳寺への道を告げる石塔が二カ所に建つ。 魔除けを意味する庚申塚として建てられたこれら石塔の頭部には、 いずれも、見ざる・聞かざる・言わざるの「三猿(さんえん)」を頂くが、これは青面金剛の形相だといわれる。
 
三猿を頂く石塔






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