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地 蔵


地蔵盆に化粧直ししてもらった地蔵たち


私が子どもの頃、夏休み中の八月二十三日(京都では地蔵の縁日に当たる二十四日)、村の観音堂に子ども会の みんなが集まって地蔵盆を楽しんだ。どの家にも、家には地蔵さんが祀ってあって、その数軒から地蔵を借り、お洗濯し、石灰で化粧をし直し、墨で目鼻を描いて、観音さんの前に並べた。そこへは村中からお供えが届くのである。



地蔵盆の飾り付け
もうその頃は、子どもたちで念仏を唱えたり、数珠回しをすることはなくなっていたが、一日中、みんなはお堂の内や外で遊びつづけ、夕方になると、七輪に炭を起こしてカシワのすき焼きを頂いた。最後に、お供えのお菓子や果物を分けてもらって、解散する。釈迦が亡くなってしばらくは仏法も守られるが、入滅後二〇〇〇年も経つと無法の時代となり、次の弥勒(みろく)仏が出現して衆生を済度(さいど)してくれるまでの五六億七〇〇〇万年は無仏の時代となる。その間の人々のあらゆる願いを聞いてくれるのが地蔵菩薩だという。


地蔵菩薩は衆生救済の誓いを立て、われわれにご利益(りやく)を与えてくれる。それは一〇あって、1.土地の豊穣、2.家内安全、3.死後は天国に生まれる、4.延命長寿、5.願いが叶う、6.水難・火災にあわない、7.厄除け、8.悪夢を見ない、9.旅程の無事、10.仏によく巡りあう、の現世利益ばかり一〇である(『地蔵本願経』「地蔵十益」)。




地蔵盆の日の
民家のお供え
菩薩という称号は仏に次ぐ称号で、いま、実践している修行、つまり衆生を済度するために立てた誓いを成就したとき、仏となる身をいう。弥勒菩薩は現在、天界(兜率(とそつ)天)で天人に法を説いている最中だが、これを終える五六 億七〇〇〇万年後に仏になる。仏とな って下生(げしょう)し、釈迦による救済から洩 れたすべての人々を済度するのである。


同じように阿弥陀仏は、阿弥陀仏が法蔵菩薩であったときに、すべての人々が救済されない限り、自身、仏にならないとの誓いを立て、誓いを果たして仏となったが、その済度からも洩れた人々を救済してくれるのが観音菩薩で、観音菩薩も誓いを成就したとき、仏になる。



しかし、一人、地蔵菩薩だけは永遠に仏になることを辞退し、いつまでも菩薩のままで民衆のそばにいて、願い を聞きつづけようと誓いを立ててくれた。それは地獄から天界にまでわたる、ありとあらゆる衆生についてである。


地蔵の原形は古代インドにあり、万物を育成する大地の功徳を持つクシティガルバといわれる。中国の地蔵信仰 は隋から唐の時代に花開くが、それは、地獄の大王、閻魔王は地蔵の化身と考え、死後の地獄での救済を求める信仰であった。


 
町角の小さな地蔵
の祠(ほこら)
日本での地蔵信仰は奈良時代に始まり、平安時代後期に確立する。釈迦の法がすたれる末法の時代が一〇五二年から始まったと考えたからである。地蔵が子どもの守り本尊であり、地蔵盆が子どもの祭りとして流行したのは、江戸時代から。


地蔵さんは観音さんとともに、どこの寺院ででも見られる。古い町家や田舎の各家にも祀られ、さらには路傍の片隅や草むらの中にまで地蔵さんはおわす。人の住む至るところで、いつも庶民の祈りを聞きつづけてきてくれたのである。


 
彫刻家の作品六地蔵




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