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年神
年 神
年神棚
昔は、年を数え年で数えた。各人の誕生日に関係なく、正月を迎えると、皆、いっせいに年を一つとった。
毎年、一月一日の朝、つまり元旦に年神
(としがみ)
を迎える。年神は、その年の五穀豊穣と家内の安全をもたらしてくれる神であり、人には一年分の新しい魂を与えてくれる。これを数えて数え年とした。正月に「おめでとう」と挨拶するのも、年神を迎えることができておめでたいからである。
年神は五穀を司る神。『古事記』によれば、須佐之男神
(すさのおのかみ)
の孫に御年神があり、稲の守り神を務める。また陰陽家では、娑謁羅
(しゃから)
竜王の娘、女神・頗梨采女
(はりさいじょ)
をいい、元旦に慈悲の姿となって人間界に来訪する神霊だという。のちに、この二つに先祖霊が加えられて、年神は、その瑞々
(みずみず)
しい活力により人間に再生産の力を与え、復活させるとされた。
年神を家に迎える目印となるのが門松である。松は常緑樹で、厳寒にも緑を失わず、「神待つ木」と称して、神の降臨する神聖な木となった。樹齢も長く、「松は千歳
(せんざい)
を契る」といわれる。
門松
注連縄
鏡餅
正月の間、年神は年神棚に祀られる。多くは、普段からの神棚に新しい注連縄
(しめなわ)
を張って、ここに年神に留まってもらう。注連縄に囲まれた部分は清浄な神域となる。
年神の御神体は鏡餅である。古代、祭祀に用いられた鏡は、現在も神社の御神体である。丸く平らに、古式の鏡のように丸められた鏡餅には稲の霊が宿り、鏡開きした餅を食べる者は新しい生命を体内に取り込めるとされた。
雑煮は年神に供えた餅を下げて、いろいろの具と煮たもの。具は地方によってまちまちで、郷土色が現れる。神に捧げたものを人も共に頂くことによって、神の霊を頂き、神と一体化するのである。
年神に供えものをして、年神から新しい魂をもらう。年神への供えものが「お節
(せち)
」であり、年神から与えられる魂が「お年玉」である。年玉は
年魂
であり、新しい魂は鏡餅としてかたどられた。
お節に欠かせない三つの祝い肴がある。黒豆と数の子とごまめである。「三つ肴」と呼ぶ。京都では黒豆と数の子とたたきゴボウをいう。
お節
黒豆は、黒色が道教では魔除けの色とされるから。また、まめに暮らせるように。数の子は子だくさんの、子孫繁栄の縁起を祝って。ごまめは「田作り」ともいい、田んぼの肥料に材料のイワシを用いたところ、米が五万俵もとれた。「五万米」
(ごまめ)
と当てる。一年の豊作を祈るためだ。ゴボウは、豊作の年に現れるという黒い瑞鳥を意味し、黒は魔除けの色でもあるから。
お節も雑煮も、柳の白木でつくった柳箸で頂く。柳は、枝が水に浸かって、水の霊気に清められた聖木だとするところから。また「家内喜」
(やなぎ)
の字を当てて、これにあやかろうと。
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