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磐座


神の宿る山、神体山の代表ともいえる三上山


原初、人々は自然そのものを神とし、崇拝した。自然には霊的な力や生命力が秘められていて、これを人の生活に取り込もうとする信仰がアニマティズム。自然界のあらゆるものは、それぞれ具体的な形があり、固有の霊魂や精霊を有するが、自然界に起こる現象はこの霊魂の働きによると見なす信仰がアニミズムである。


人は死んで天に昇り、祖霊神となって子孫を守ると信じられたが、天から下った神は秀麗な山の奥地に住むようになり、山は他界、霊魂の地として神聖視されるようになる。全山、山は禁足地であり、山そのものを信仰礼拝の対象とするようになった。これを「神体山」という。


天から下る神は山頂の高木や大岩に降りるが、神を迎える大岩を「磐座(いわくら)」と呼ぶ。神の座となるこの大岩そのものを神と見なす考えも多い。また、神の宿った高木は御神木(ごしんぼく)である。これらは聖域として、注連縄(しめなわ)が巡らされたりしている。


平常は清浄な山の奥地に住む神は、もともとは祭祀に際してのみ、人里に区画された祭場に迎えられた。やがて、そこには建物が建てられるようになり、神社の起こりとなる。祭祀とは、主に五穀豊穣を祈る農耕儀礼である。


近江の国の中でも最も早くから開けたといわれる野洲地方の、ランド・マーク的存在が三上山(みかみやまである。その美しさは「近江富士」とたとえられるが、孝霊天皇六年、山頂に天之御影命(あめのみかげのみこと)が降臨したので、子孫にあたる御上祝(みかみのはふり)は、この山を神霊の鎮まる山として崇めた、と社伝に伝える。


山頂には巨大な露頭岩石があって、磐座である。ここには奥宮(山宮)も祀られている。「みかみやま」という呼び名は「御神山(みかみやま)」であり、すなわち山即神という観念をよく表している。



比叡山の守り神、
日吉大社の根源地<
 
湖国三大祭りの一つに数えられる大津市・日吉大社の山王祭(さんのうさい)。四月十二日の宵宮には、この祭りのクライマックスともいえる神輿(みこし)落としの神事が行なわれる。日吉大社の鎮座する牛尾山。その牛尾山山頂にある奥宮、牛尾・三宮両神社から、急坂を下りた東本宮まで、松明(たいまつ)にかざされた四基の神輿が担ぎ下ろされるのである。


牛尾・三宮両社にはさまれた、二つの社(やしろ)の奥の巨岩は磐座で、「金大巌(こがねのおおいわ)」と呼ばれる。牛尾山の神体山信仰は、この巨石崇拝から始まった。比叡山の守護神である日吉大社の根源地である。


瀬田川沿いの田上(たなかみ)郷の守り神、守りの山が太神山(たなかみやま)である。頂上にある巨大な磐座に天照大神(あまてらすおおみかみ)が降臨したので、「大神山」と称したという。同時に、この神は山の水を司る神として、麓の田の水源を守った。「田の神山」ともいわれた。


現在、山上には不動明王を祀る田上不動寺(太神山成就院不動寺)が磐座に接して建っている。開祖は、三井寺を開いた智証大師円珍。本尊の不動明王は開祖が刻んだと伝える。


その三井寺本山にも磐座はあり、境内の「三尾影向石(みおようごうせき)」のある奥の谷、琴尾谷に三尾明神が下ったという。本山長等山の地主神である三尾明神は、白尾・赤尾・黒尾の三神で、智証大師の入寺を迎え、大師の護法を約束した。
 
現在は不動明王を祀る
太神山の巨大な磐座


三井寺開祖、智証大師を迎えた
三尾明神の影向石






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