第二十八番札所 成相山 成相寺
べんべん一行を乗せた車は舞鶴市を出て宮津市へ。徐々に潮の香りが強くなってくる。海が近づいているのだ。昼食のために立ち寄ったサービスエリア内も海産物でいっぱい。豪華な海鮮丼を平らげたべんべん一行は、さらに車を走らせ「成相山 成相寺」へと向かった。
願い事成り相う寺
成相寺は、日本三景・天橋立を見下ろす成相山の山腹に建つ。成相山は古くから山岳宗教の修験場として知られ、寺は慶雲元(七〇四)年、文武天皇の勅願所として真応上人が創建したと伝えられる。三十三所中、最北端に位置する寺である。
寺の名は、『今昔物語集』の一節に由来する。餓死寸前の修行僧を、御本尊「聖観世音菩薩」が鹿となりその肉を与えて助けたことから、「願い事成り合(相)う寺」と呼ばれるようになったという。
現在の本堂は幾度かの消失を経て、安永三(一七七四)年に再建されたもの。べんべんは多くの参拝客で賑わう堂内で何度も記念撮影に応じつつ、御本尊に手を合わせ、御朱印をいただいた。
左甚五郎作「真向の龍」。
堂内には、彫刻「真向の龍」が掲げられている。三井寺の「三井の霊泉」にある龍の彫刻と同じ、左甚五郎の作品である。
江戸時代、宮津に滞在していた甚五郎は雨乞いのための彫刻を依頼されるが、龍の姿を知らず思い悩み、夢の中で龍の住む場所を教えられる。その通りの場所へ行き三日間祈ると、滝壺から龍が現れ、空へ立ち昇り雲の中へ消えていった。こうして完成したのがこの「真向の龍」と伝えられる。その名の通り正面を向き、少しユーモラスな表情をした精密な龍である。
「三井寺より立派やな」と自虐的な感想を漏らす取材班。振り返ると、べんべんはすでに彫刻から少し離れたところにいて、何かのパネルを熱心に見つめている。
「『厄除け かわらけ投げ』かわらけに願い事を書いてパノラマ展望台から輪の内めがけて投げてみよう! 三枚一組二百円」
かわらけを三枚投げ、ひとつでも輪の内を通れば願いごとが叶う、ということらしい。パネルの前には、グレーの丸い小さなかわらけがたくさん置かれている。
「パノラマ展望台に行くべん」。二百円を料金箱に入れ、かわらけを握りしめたべんべんが、本堂を早足で出ていく。突然何かのスイッチが入ったようだ。いったいどうしたというのだろう。
べんべんチャレンジ 〜かわらけ投げ〜
べんべんに急がされながら山上に向かって五分ほど車を走らせパノラマ展望台に着くと、右手にカフェ、左手に太陽をかたどったような輪っかがみえる。「あの輪の中に投げるべん!」べんべんは素早く車を降り、輪のところまで一目散に走っていく。
やたらと意気込むべんべんに一体何を願うのか尋ねると、「ダイエットべん」と真顔で即答。筆者はこのとき初めて知ったのだが、べんべんの胴体が下ぶくれ気味なのは、どうやら「太っている」ということらしい。輪を見つめながら肩を回してウォームアップするべんべん。かなりの本気だ。果たして、この「痩せたい」という切なる願いは叶えられるのか。
風向きを確認したべんべん選手、大きく振りかぶり「べぇん!!」という聞いたこともない奇声を上げながら渾身の第1投。しかし、かわらけは虚しく輪の外へ。「べぇぇん!!!」「べぇぇぇぇぇん!!!!」第2投、第3投とますます力を込めたが、どちらも輪の中を通ることなく、風に流され落ちていった。どうやら、べんべんの体脂肪は今後もこのままのようだ。「世知辛いべん……」かわらけが落ちていった方を見つめ、うなだれるべんべん。かける言葉もないが、そもそもスリムになったべんべんは果たして可愛いのだろうか。いや、たぶん可愛くない。べんべんには悪いが、きっとこれでよかったのだ。
パノラマカフェ「美人喫茶」
パノラマ展望台には小さなカフェがある。その名も「美人喫茶」。成相寺のご本尊が「美人観音」とも呼ばれていることからつけられた店名であろう。テラスから海の方を望むと、天橋立がきれいに見える。べんべんは椅子に座り、運ばれてきたホットコーヒーを飲みながらしばしくつろいだ。「天橋立を眺めながらのコーヒーは一味違うべん。挽き立ての味と香りがいっそう引き立つべん……」べんべん、違いがわかるゆるキャラ。
べんべん、天橋立に立つ
成相寺を出たべんべん一行は天橋立へ。ロープウェイで傘松公園まで行って名物「股のぞき」をすることも考えたが、べんべんには覗くほどの股がないのでやめておいた。松の木と砂浜の続く天橋立を、写真撮影に応じたり、散歩中の犬に吠えられたりしながら進み、石碑の前で記念の一枚。空はすっかり晴れ、夕方の海辺の風景が美しい。「ダイエットの願いは叶わなかったけど、今日雨が降らなかっただけで十分べん。いっぺんに二つも三つも願いごとしたらいけないべん。体脂肪はこれから修行して自力で落とすべん」まだ諦めていなかった。痩せないで、べんべん。
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