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かけがえのない日々

高校三年生のときに母を亡くした。

学校から帰ると食卓に母の手書きのメモが置いて あった。「体調が悪いので病院に行く。昼ごはんは冷蔵庫に入れてあるから温めて食べるように」とあ った。レンジで温めようとしたとき、電話がかかってきた。母が手術中の事故で危篤状態になっているという病院からの連絡だった。訳が分からず病院にかけつけると、母は既に亡くなっていた。

その夜、母が用意してくれていた料理を父と弟の三人で食べた。いつもなら十分もあれば食べられるのを、三人とも無言で一時間以上かけて食べた。それはこれまで毎日当たり前のように食べてきた料理と味だったが、これを食べてしまえば、もう二度と 同じものを口にすることができないと皆が思っていた。日頃から口うるさい母で、何を言われても面倒に感じ、ときにはいっそうのこと居なくなればいいと思ったこともあった。それでもこれからは悪いことをしても怒ってくれる母はもういない。

母のいる当たり前の日常、空気のような存在だった母を失ってはじめて、かけがえのない存在の意味を知った。


西坊信祐



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