雨月物語は霊界と非現実世界を描く。
数多くある秋成の著作中、もっとも
有名な作品は雨月物語であろう。泉鏡花や佐藤春夫が心酔し、そして著作も
残している。また映画『雨月物語』は
溝口健二監督、田中絹代主演で昭和二十八年封切された。
秋成の読本は伝奇小説に属し、「幽霊物語」と自らも言うとおり、霊界と現実とを往還する、死してなお現世に
未練を残す霊や妖怪を描いている。雨
月物語は秋成三十五歳の時から想を練
り、推敲を重ね、ついに安永五年、秋成四十三歳の時刊行する。
雨月物語に収録される九編は、いずれも現実と非現実の境界を舞台とした怪談である。その九編を紹介してみると「白峰」では、崇徳院の怨念を…。
「菊花の約」では義兄弟再会の約束を
果たす魂。「浅茅が宿」では夫一筋の
妻の霊を、そして今回の特集、三井寺
の僧侶の鯉への身代わり描く「夢応の鯉魚」。「仏法僧」では関白秀次の修羅
を、「吉備津の釜」では妻磯良の怨念
を、「蛇性の婬」では女児の恋慕を、「青頭巾」では行脚僧の食人鬼を、「貧富論」では黄金の精霊が活躍するなど、
霊・怨霊・妖怪など登場し、読者を異
世界にいざないつつ、人間の本質をと
らえた珠玉の短編集である。
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