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呉音と漢音(三)

「葬式にはよく参列しましたが、和尚さんのお経が理解できていません。いつもぼんやりしています。
 もし、お経が分かりやすい日本語に改革されて、読本形式に朗読できれば、人生を考える絶好のチャンスに変わることでしょう。今のお経では理解できませんから、私が死んでもなおさらのことです。亡くなられた方も、多分、理解しがたい儀式だと思っておられるのではないでしょうか。

 仏教の興隆のためには、分かる言葉のお経に改革するのが先決だろうと思います。教義が長くなるのなら、その読本の一部を時間内に収めるように調整して利用すれば良いのではないでしょうか。立派なお経の意味が皆に理解出来れば、礼儀正しい、明るい世界になるのではないかと思います。このことを各宗派の皆様にお願いして、平易な日本語で教義を翻訳していただきたいものです」

 上記の文章は、朝日新聞「声」の欄に掲載されました三重県在住の72歳の男性の投稿です。
 これは和尚さんが、呉音もしくは漢音の音読で経典を読誦されていたことに対して、理解できないとおっしゃっておられるのであって「お経が分かりやすい日本語に改革されて」あるいは「平易な日本語で教義を翻訳」とは、訓読でお経を唱えてもらえないだろうか、そうすれば参列者も和尚さんが唱えるお経の意味が理解できるのにということだと思います。

 現在、各宗派で読誦されている主要な経典は、壇信徒の方々のためほとんどが訓読で出版されているだろうと思います。

 僧侶が経典を音読で読誦するのは、修行の一部としてであります。三井寺はお葬式をしないお寺ですが、日常読誦します『観音経』や『般若心経』は呉音で、法華経『安楽行品』や『阿弥陀経』は漢音で読んでおります。これは伝統でありますから、その和尚さんが今後葬儀において訓読でお勤めをされるとは残念ながら思えません。

 しかし、各宗派が伝統に安座しているかといえば、けっしてそうではありません。経典の解説(げせつ)には各宗派とも最大限努力を払っております。その和尚さんも葬儀の後や逮夜法要の後などに、唱えた経典の意味を分かりやすく解説されているのではないでしょうか。

 確かに音読だと意味が分からないというご意見はもっともです。しかし一方では、音読で唱えられるお経の旋律は意味が分からなくとも、心に平安をもたらし、癒しの効果もあるとのご意見があります。皆様はどうお考えでしょうか。(梅村敏明)




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