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十句観音経(一)

先達さんにつきましては以前ご紹介いたしました(151、152号)。その先達さんたちがご本尊さまに勤行の時、テキストとされるのが『西国三十三所勤行次第』です(西国三十三所札所会先達委員会発行)。先ず開経偈を唱えてから懺悔文、般若心経、妙法蓮華経観世音菩薩普門品第二十五偈(世尊偈)、延命十句観音経、御本尊真言、御詠歌と続き、最後に回向文となっておりますが、先達さんの中にはご自分なりにアレンジを加えてお勤めをされておられる方もお見受けします。

勤行次第に多少の増減があっても全く問題ではありません。心をこめてお勤めすることが何よりも肝要です。

さて、今回は『十句観音経』についてお話しましょう。

このお経の最大の特徴は大変短いということです。『般若心経』の266文字に対して、『十句観音経』はわずか十句42文字です。

観世音(かんぜおん) 南無佛(なむぶつ)
與佛有因(よぶつういん) 與佛有縁(よぶつうえん)
佛法僧縁(ぶっほうそうえん) 常楽我浄(じょうらくがじょう)
朝念観世音(ちょうねんかんぜおん) 暮念観世音(ぼねんかんぜおん)
念念従心起(ねんねんじゅうしんき) 念念不離心(ねんねんふりしん)

江戸時代、霊元天皇(1663~1687)が延暦寺の僧霊空律師(1652~1739)に命じて撰述させたものです。「いかにも功徳深からんず経を選び出し、上覧に備へ候へと御勅使有しかば、霊空承り、深く大蔵に入って精しく尋ね探て、此経を撰び書して以て進献す。即今の延命十句経これなり」と白隠禅師(1686~1768)は述べています。

しかし、人々からは霊空が大蔵経より撰述したというも、その出典が明らかではないと揶揄されます。禅師は「大凡五時八教の間には、華厳部か、阿含部か、方等、般若、法華部か、五千四十八巻の中、何れを尋ねさがしても、終に正しき出所なし。いかさま、これはかならず偽経ならんと眉を雛(しわ)むる人有よし。何れにせよ、甚だ無智の穿鑿なり」と一蹴し、さらに続けて「漢土にては、観世大士、法師の形を現じ玉ひ、孫敬徳と云し者に口づから授け玉ひ、我朝にては北野の御神正しく沙門の形を現じ、面のあたり授け玉ふ。(中略)たとへば人参、黄蓍、葱冬、莎仁等の如き大妙薬の出所正しからず、来由明らかならずといふて、是を棄擲(きてき)して可ならんや。只彼効能の難治の重症を治し、人の病苦を救ふをもって貴しとすらくのみ。いかなる愚夫、かの出所を尋ね、来由を問ふに暇あらんや」とあります。これは『延命十句観音経霊験記』(白隠禅師原著、原田祖岳校注。大蔵出版)に記された一文です。次号では十句観音経読誦の功徳について、ご紹介することにします。(梅村敏明)

 



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