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十句観音経(二) 観世音(かんぜおん) 南無佛(なむぶつ) 前号にも記しましたが、上記十句42文字からなる十句観音経を読誦すると、 秘められた功徳にはどのような奇跡があるのでしょうか。『延命十句観音経 霊験記』(白隠禅師原著、原田祖岳校注。大蔵出版)から紹介しましょう。 京都三条通の町家に住む男の妻が、 難治の病に罹って、薬石も効き目がな く、男は毎夜北野天神に丑の刻詣りを して妻の快復を祈願します。七日目の満願の夜、いつものように神前でお詣りを済ませ帰ろうとすると、老僧が茶店の床机に腰掛けていました。老僧が男に「あなたは毎夜神前に何を祈願しているのですか」と尋ねると、男は妻の病気のことを詳しく話しました。老僧は「妙案があります。それをあなた に授与しましょう。帰ったならば家族中で病人を囲み、この経を読誦しなさ い。そうすれば明日には全快するでしょう」と。男は授かった経を三十遍読み暗唱し、老僧に礼拝して家路を急ぎました。 家に帰ってみると、家族中が病人を囲んで声高に誦経をしていました。よく聞けば先程老僧から授かった十句経でした。不思議に思った男は「誰にそれを教わったのか」と聞くと、「気高き老僧が現れて、この病人は天下の名医を集めて秘術を尽くしても助けることは難しい。私に微妙最上至極の金文があります。それを家内が交代で信心をこらして唱えたならば、明日には希代の霊験が現れるでしょう」と、二、 三十遍教えてくださいました。今まで ここにおられたのですが、跡形もあり ません。男が「老僧のお年は?お顔は?袈裟の色は?」と尋ねると、紛れもなく北野天神で出会った老僧そのものでした。北野天神が我々に信心深 くお経を読誦させようとして、御身を両所に分けてお経を伝授して下さったのだとわかり、悦び勇んで読誦を続けると、夕方には食事もすすみだし、次第に快復へと向かったということです。陀羅尼にも名号にも加持にも呪詛にも呪いにも比類なき貴い金文であると しています。 北野の天神様が沙門の姿に身を変え、自ら金文(十句観音経)を授けて下さ った。何を疑うことがあろうかと記しています。 そして、北野天神の本地仏(神仏習合思想で、仏が本で神はその姿を借りたものだとする考えかた)が、十一面観世音菩薩であることにも言及してい ます。(梅村敏明)
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