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三猿(七猿歌より)

今は亡き前の天台座主 山田恵諦大僧正の御著『元三大師』によれば、天禄四年(九七三)第十八代座主・元三慈恵大師様が日吉三王権現に願文を捧げられた折、権現の使いである猿に因んでさるを詠みこんで作られた七種の歌の処世訓が記されてある。

何事も見ればこそげにむつかしや
見ざるにまさることはあらじな
聞けばこそ望みもおこれ腹もたて
聞かざるぞげにまさるなりけれ
心にはなにわのことを思うとも人の悪しきは
言わざるぞよき
見ず聞かず言わざる三つのさるよりも
思わざるこそまさるなりけれ(外三首)

両の手で目、耳、口を塞いだ三様の猿は、元三大師様の処世訓から生まれたものであるが、世間一般では処世術としてしか解釈されていない感がある。新聞の健康欄にも自分に都合の悪いことは、見ざる、聞かざる、言わざるで世の中を切りぬけなさいという活字が並んでいた。この厳しい娑婆世間、はたしてこれで生涯を切りぬけられるのだろうか。


遊心庵主・岡部善惠





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