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一心に全力で

私には双子の弟がいる。今年で共に三十五歳になる。ところが弟は生まれつき腎臓が悪く、二〇歳から人工透析をはじめ、今では一刻も早い移植が必要だ。医師によれば、幸いにも私の腎臓がもっとも適合するという。

弟には子供もいる。その子のために生きたい、頑張りたいと弟はいう。しかし、私は自分自身の将来の夢や目標のことを思うと、不安で怖くて仕方がなかった。

この頃、書家の金澤翔子さんが当山に書を奉納された。翔子さんはダウン症という障害をかかえている。母・泰子氏によれば、翔子さんは他を悪く思うことがなく、野心もなく、純粋で、人を喜ばせたいがためにその時の全力をもって字を書くのだという。

翔子さんが書いた「慈愛」という字を見て、身震いがした。自分は今の瞬間を頑張っておらず、投げやりになっていた事に気付いた。

私は弟を助けたい。五体満足でなくなったとしても、諦めず一心に全力をもって物事に当たれば何か出来ることがあるかもしれない。怖くなった時、そのように思うと心が和らいでいく。


西坊 信祐



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