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平凡の力

父は、どこにでもいる普通の父親だったと思う。休日になると午後に起きてテレビを見たり、母に言われて買い物に行ったりしていた。

そんな父は、四年前に六十三歳で亡くなった。葬儀の時、弔問に来てくれた人が「苦労したな」、「優しすぎたな」と、眠っている父に声をかけていた。

これは父の会社の同僚から聞いた話だ。ある時、上司に仕事の成果をとられた上、失敗をなすりつけられた父は、激怒して上司のもとに向かっていったという。そのとき同僚が「上司に手をあげて、双子はどうなる。路頭に迷わせる気か」と言われ、父は歯を食いしばり席に戻ったそうだ。

双子とは、私たち兄弟のことだ。小さいころ、父とキャッチボールをしながら「お父さんと一緒の会社に入って、一緒に働きたい」と言ったのを覚えている。父は何とも言えない表情で「ダメ」と言って、ボールを投げ返してきた。

私は家庭外での父の姿をほとんど知らないが、普通の日常を築き、それを護っていくことがいかに難しいことか。そんな平凡な日常こそが、かけがえのないものだと気づいたのは、父を失った後だった。何も言わず、当然のように家族を護ってくれていた父の存在を、今はとても大きく感じる。


西坊信祐



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