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托鉢を通して 師僧が住持する太神山不動寺では、毎年十一月のはじめにお初穂の托鉢行を行っている。はじめて同行したのは十年程前のことだった。家の呼び鈴を押して「田上山不動寺です。お初穂の托鉢に参りました」と声をかけて、応対に出てきた家人に御札の入った木箱をわたす。すると、その年に収穫された新米や浄財を入れて返してくれるのだ。 訪れる家々は信徒や知った人のところばかりではない。にもかかわらず、断られることはまれだった。私はそれをとても不思議に思っていた。もし逆の立場なら、私はドアさえ開けずに断っているだろう。 数年同行しているうちに、「毎年ご苦労さん」と声をかけてくれる人もいた。なかには「これも持っていけ」と、ミカンや野菜を入れてくれたり、お茶を出してくれる家もあった。「今年はやるよ」という人もあった。私はそれがとてもうれしかった。 返してくれる木箱には、お米だけでない特別なお気持ちが入っているように感じるようになった。そして、それはとても大切なものだと思っている。 西坊信祐 ・「法の華」一覧に戻る ・「教義の紹介」に戻る |