入門してほどなく体験した三井寺でのお茶会。お運びもお点前も何をどうやったか分からないほど無我夢中だった。しかし、そこで頂いたお茶の美味しさには本当にびっくりした。そして日も傾きかけたころに聞いた梵鐘の音は私の心を揺すぶった。

ご近所さんに誘われて、始めた三井古流煎茶道は、なかなかに手強いものだった。なんといっても饗する相手や状況に細やかに応じる点前の種類が豊富である。自信があったはずの記憶力はすっかりさびつき、また点前の最後の禅問答にも稽古の度に悩まされる。それでも宗匠の「覚えなくていい。身につくものだから」というお言葉を頼りにここまでやってきた。茶具敷の前に座るたび頭の中は真っ白だ。それでも宗匠や小林ひろみ先生の声に従い点前を始めると所々自然に手が動く。その喜びたるやない。

この歳になって新しいことを始めるのはなかなかに思い切りが必要である。それもこれもこの喜びに出会うためだったのだろうか。もとより三井寺での初茶会で喫した一煎の美味しさと梵鐘の音に覚えた感動、あの喜びも生涯忘れない。

三井古流煎茶道　洛生分会　篠野　恵